レター 2023年 冬号
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23東京臨海病院産婦人科堀 祥子日本私立学校振興・共済事業団 直営医療施設東京臨海病院〒134-0086東京都江戸川区臨海町1-4-2☎03(5605)8811(代表)http://www.tokyorinkai.jp●妊娠、分娩後の心の変化妊娠出産は女性の生涯に大きな変化をもたらします。ホルモンバランスの変化による体調の変化だけでなく、ライフスタイルの変化、家族や友人、職場での人間関係の変化も起こります。赤ちゃんから常に必要とされることは幸せなことですが、出産・育児は初めての経験が多く、不安に感じることも多いです。たくさんの変化より生じるストレスや不安は精神面に影響します。●マタニティ・ブルーズマタニティ・ブルーズとは、分娩後2週間以内で、ホルモンバランスの異常によって生じる一過性の情動障害のことです。涙もろさを主とした気分の落ち込み、不安、不眠、食思不振、疲労感などで診断をします。発症頻度は約30%と珍しいことではなく、治療せずに1~2週間で症状は自然に消失しますが、重度のマタニティ・ブルーズは産後うつ病のリスク因子と考えられております。産後うつ病は産後2週~数か月で発症し、抑うつ状態が2週間以上続き、育児や家事など日常生活に支障をきたした病態です。後述するエジンバラ産後うつ病質問票などを用いてスクリーニングを行い、陽性となった方は、専門の医師から診断を受けます。発症頻度は約10%であり、症状に応じて認知行動療法や薬物療法などを行います。産後うつ病は自殺の重要な危険因子です。近年、妊産婦死亡の原因として自殺が増加傾向であることからも、迅速な対応が必要です。●エジンバラ産後うつ病質問票(EdinburghPostnatalDepressionScale:EPDS)産後うつ病のスクリーニング方法の一つとして、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)があります。精神面に問題を抱える女性は自ら支援を求めない傾向があるため、医療側から積極的にスクリーニングを行います。日本では9点以上で陽性となりますが、表情や言動などを確認し、総合的評価を行うことが大切です。当院では分娩後、退院する前と1か月健診の際につけていただいており、必要に応じて、育児不安が高まりやすくなる産後2週間前後を目安に受診していただくこともあります。●一人で悩まず、相談をストレスや不安を感じることはごく自然なことであり、自分の気持ちや考えを振り返り、気づくことが大切です。家族のサポート体制を整えるだけでなく、困ったときは、お産をした病院や、区・市町村の保健センターへ相談に行くことをお勧めします。妊娠中、出産後にストレスや不安などありましたら、通院している産婦人科や専門機関へ相談してください。また、妊娠・出産後の心の変化について、家族や職場など周囲の理解が深まることも非常に重要です。マタニティ・ブルーズと産後うつ病

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