レター 2022年 夏号
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19東京臨海病院泌尿器科部長和わ久く本もと 芳よし彰あき◆東京メトロ東西線「葛西」駅から京成バス臨海病院線 「東京臨海病院行」約12分◆JR京葉線「葛西臨海公園」駅から徒歩約20分日本私立学校振興・共済事業団 直営医療施設東京臨海病院〒134-0086東京都江戸川区臨海町1-4-2☎03(5605)8811(代表)http://www.tokyorinkai.jp◆東京メトロ東西線「西葛西」駅から都バス「臨海町二丁目団地前行」約10分「東京臨海病院前」下車●発見されやすくなった前立腺がん 前立腺がんは近年劇的に増え続けています。なぜこれほど増えているのか。もともと前立腺がんは高齢の方に多いことに加え、PSAというがんマーカーの存在が挙げられます。精度・信頼度とも非常に高く、がんの存在をいち早く捉えます。 このPSAにより、前立腺がんは早期診断早期治療が可能となり、多くの方がその恩恵を受けています。ただし、ここで知っておいてほしいことがあります。●潜伏がん 前立腺がんは発症しないまま潜伏しているものが多く、年齢とともにその比率は高くなります。70歳代では40%、80歳代では50%の方の前立腺にがんが潜んでいるとする報告もあります。つまり、長生きすればするほど前立腺がんになるとも言えます。そこでさらにひとつ。●早期診断=直ちに治療?? それは Insignificant cancerという概念、“臨床的に意義のないがん”と訳されます。“がん”なのに意義がない、というのは奇妙な言い方ですが、前立腺がんは一般に極めてゆっくり育つものが多く、がんとして発症する前にその方の寿命が他の原因で尽きてしまう、ということが少なくないのです。となると、“そのまま様子を見ていても人生に影響がないなら、無理に治療を仕掛けなくてもよい”ということになります。これがInsignificant cancerの考え方です。 早期発見はがんを克服するうえで大切ですが、治療によって生ずる合併症等がその後の人生に負の影響を及ぼす可能性も考えなければなりません。生命に悪影響がないならば、積極的な治療が過剰医療となってしまうこともあり得ます。早期診断=直ちに治療が常に正しいとは限らないのです。●監視療法という選択 ただし、治療すべきか待つべきかを決める明確な基準はありません。この対応策として監視療法があります。診断後直ちに治療を開始するのではなく、定期的にPSA検査等を行い、経過観察しつつ治療開始のタイミングを見極める方法です。患者にはがんと共存していく不安が残りますが、治療によるQOL(生活の質)の犠牲を避けられるのは大きな特典でもあります。 もし前立腺がんと診断されたら、監視療法を視野に主治医ともよく相談の上、自分にとって最良の治療法を選択してください。[参考]日本泌尿器科学会編前立腺がん診療ガイドライン国立がん研究センター がん情報サービス前立腺がん その非常識のような常識

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